ながせの哲学
3ながせが目指す蕎麦
ながせの蕎麦は、僕が25年にわたって修行させていただいた「恵比寿」の味がベースになっています。
明治から百余年の長きにわたって蓄積されてきた知識と技術、時代に磨かれたその味には、たやすく変えられない重みがあります。
これまで、その味を守ることこそがお客様の期待に応えるためにすべきことでしたが、その一方で「こうすればもっと良くなるんじゃないか」という、次のステップを求める気持ちも芽生えていました。
独立を果たした今、老舗の味という道しるべにはもう頼れませんが、代わりに自分の蕎麦を追求する自由を手に入れました。
何を基準にして自分の味を創るかというのはとても難しい問題ですが、その答えは僕自身の中にしかありません。
目指すのは、僕自身が好きな、僕自身を唸らせるような蕎麦です。
細打ちながらそれを補うコシの強さがあり、心地良い喉越しとしっかりした食感を兼ね備えること。
そして独特の舌触りと香りを十分に味わえる蕎麦。
イメージを言葉で伝えるのは難しいのですが、ながせが目指すのはそんな蕎麦です。
今までいろいろな蕎麦に巡り会いましたが、その中でも、名人として知られる高橋邦弘さんの打つ蕎麦は、僕の理想に最も近いものでした。
味が良いのはもちろんのこと、高橋さんの本当にすごいところはその蕎麦の味がいつも変わらないことです。
蕎麦はとてもデリケートなので、普通はその時の天候などによって仕上がりに微妙な違いが出てくるものです。
僕もときには大きな失敗をすることがあり、まだまだ修行が足りないことを改めて思い知らされます。
僕はまだ蕎麦の道の半ばにいます。
どこまでも慢心することなく、でもいつか自分を満足させられるように、今は一歩ずつ前に進むだけなのです。